2011年8月2日火曜日

独自に放射能調査を行う日本人(福島県いわき市志田名地区 オオコシさん)

The New York Times 英語原文はこちら
2011731
By KEN BELSON 
発信地:いわき 日本

線量計を約625ドル(¥50,000)で購入したオオコシキヨコさんには、単純な目的があっただけだった。彼女の娘や孫がいないのがさみしくて、帰って来て欲しかったのである。

地元当局者らは、彼女の住む町は原発から離れているから安全だと言い続けるだけ。その町が福島第一原発から約20マイル(32km)であろうとも。しかし、娘にとっては疑わしいままである。それは政府からの人間は誰も自分の家の近くで放射線測定値を確認しなかったからである。

そして4月、オオコシ夫人は、近くの森の道路や水田をチェックするために、線量計を使い始めた。驚いた。下水溝の近くでのメーターは、乱暴に振れ、画面には時間あたり67マイクロシーベルトの表示、有害なレベルの可能性である。オオコシ夫人と近くに住むいとこは、当局者に立ち向かおうと盛り上がった。その当局者は彼らに対応せず、政府がやるべき仕事を行っていなかったという彼らの心配を知っていたのである。

彼女のシンプルかつ大胆な行為により、大越夫人は、小さいながらも増え続ける広範囲にわたる汚染に対する対応は政府の失策だとして踏み出した日本人のひとりとなった。その汚染は、指導者たちが認めるように、当初の発表よりはるかに深刻である。さらに遠く東京でも、母親らによって放射性物質のためにテストがを始められている。東京は、原発の南に150マイル(240km)である。放射線の専門家が最近、東京で線量計を利用するセミナーを開いたときには、250人以上の人が集まり、主催者側は一部の人たちに入場を断る事態となった。

何人かの官僚が主導権を握っていても、福島県のある町の役人が中央政府からの助けなしに校庭で土を洗浄し、原子力事故に対する彼の上司の対応が遅いと言って保健省での仕事を辞めた放射線専門家は、福島の市指導者が独自のモニタリングを行うのを手伝っている。

こんな行動は、米国でのコメントにはほとんど値しないだろうが、これが、人々が監視すべき指導者を通常は信頼する国で起きているのだから大変である。そのような信頼は、せいぜい、政府関係者が災害の甚大さに圧倒されるという考えで低下し、最悪の場合、いかに悪事が隠蔽されているという意味で破壊されている。

「彼らは、暴動もしないしとデモもそうは行わない。しかし、手をこまねいているわけでもない。」ジェラルドカーティス教授、日本市民権を取ったコロンビア大学で政治学教授であり長年の日本の専門家は述べている。「線量計の問題で明らかなのは、放射線の危険性というよりも、人々にさらに緊張感が高まっているということだ。」

信頼の腐食は、最初は、遠く東京の顔のない官僚や議員を目指したが、今では、知事、市長と市議会だけでなく、隣人同士を戦わせる潜在的な不安傾向にも及んでいる。その信頼はまた、復元するのは難しいようだ。憂慮する市民からの圧力の下、東京の官僚は、モニタリング範囲を拡大しているが、政府の基準が安全であるのかどうか、またはその関係者らがテストを十分徹底的に行っているのかどうかと疑問視している人々が多い。

上級政府の顧問が子供がそのようなレベルにさらさ​​れることを望んでいないとの涙ながらの記者会見と、親たちからの抗議の後、政府が最近子供の許容被ばくレベルを取り消さなければならなかったことも、役には立たなかった。放射性物質を含んだ牛肉が店舗に並んだことが最近発覚し、新たな警戒が高まった。

「我々は、人々が十分安心できるまで厳格な調査を行う必要がある。」ミホケイイチ氏は言う。彼は、二本松市市長で、二本松市は福島第一原発の西側に位置し、60,000人の人口を有する。二本松市長は、増えつつある直接問題に直接取り組む地元の関係者のひとりで、市の放射線マップを作成するような対策に何百万ドルを費やしている。「これが信頼を回復する唯一の方法です。」

オオコシ夫人は、農家の生まれで、85歳の母親と暮らしている。そして娘の一人は、多くの日本人を惹き付けている都市の誘惑に抵抗し、代わりに、母親と祖母と同じ屋根の下での生活を選択した。

わからない部分では、オオコシ夫人は、彼女がトラブルを起こしたことを隣人に謝った。

それでも、彼女は、他に選択肢がなかったと感じていた。3月に始まった危機から数週間たっても、いわき市には10にも満たないモニタリングポストしかなく、それらのほとんどはより人口の集中する部分に置かれ、オオコシ夫人の住む志田名地区のようなその辺境の村は対象ではなかった。

そのうえ、彼女の蔓草がはびこる農家が、ますますひと気がなくなったのは、彼女の夫が数ヶ月前に亡くなったのと、多くの人と同様娘の家族が逃げたためである。

「私たちの生活は、4人の少年が家の裏手の山を走り回っていた頃は、活気あふれるものだった。」彼女は言う。

オオコシ夫人のテストは、高レベルの放射能を表示し続け、また彼女のいとこであるサカイチュウヘイさんが、同じ地域の農民であるが、市長に彼女のデータを提出するため、他の村人たちと一緒に出かけた。市長は対応しなかった、とサカイさんは語った。

それ以来、彼女は草の根的なモニタリングであると評価を得ている。「私は、最近の会合で私の名前を持ち出すたびに、市の職員は言う、『ああ、あなたが放射線を測定された方ですね。』」と彼女は言う。

測定は国と都道府県が行う必要があると言う市の指導者たちは、調査結果によっては起こりうる汚名の一切を避けたかったために行動に移さないと、サカイさんは考えている。

戦いの原動力は、貴重な援軍の到着とともに動き始めた。その一人はサトウカズヨシ氏、長い間原子力産業に反対してきた市議会議員で、多くの人々が第一原発で働く都市においては不人気な立場であった。

アマチュアが調査した線量計の測定値は粗雑と考えられるが、彼らは放出された放射線の1種類しかを測定しておらず、人がどのくらい放射線にさらされた可能性がを調べていないため、サトウ氏は、米国エネルギー省と日本政府による空中や土壌の測定値のマップを見た後に、オオコシ夫人の危惧が生まれたと考えた。また、かなり基本的だが、それは、137セシウム134とセシウム放射性同位体の高レベルのインジケータは、まさに彼女の村、志田名地区の上に鮮やかな黄色の区域を示していた。

今度は、市議会議員が、キムラシンゾウ氏、保健省を辞めた放射線の専門家を採用した。キムラ氏は、その後、オオコシ夫人の測定値が正しかったかどうかを確認するために広範なテストを行っている。彼は、測定は正しい、と言い、そして悪いニュースである。

放射性物質は、常に決まったパターンに合致せず、風向や地形の違いひとつで、1つのエリアをひどく汚染するが、近くの他の地域はそれほどでもなかったりする。いわき市の一部の地域は放射性物質の比較的低いレベルを示したが、志田名地区のある農場からの土壌サンプルは、ウクライナのチェルノブイリ原発事故の現場周辺の避難帯などに見られるように高い放射性物レベルを示している、キムラ氏は言う。

いわき市は、最終的に空気中の放射性物質の監視を開始することを決定したが、その問題がどの程度深刻なのかはまだ特定できていない。オオコシ夫人は、測定値が正しいと認められたことで慰めにはなってはいないが、彼女が変化を起こしたことは感じている。彼女は、騒ぎを起こしたことで謝罪をした友人が、その必要はなかったと彼女にはっきり伝えたことを、知っている。

「彼女は『いいえ、いいえ』」と言い、 オオコシ夫人は思い出した。「もし、あなたが測定していなかったら、私はなんの情報も得られなかったんだから。」
(終)
(カミイズミヤスコ、記事寄稿)

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