2011年3月22日火曜日

日本は去る2月、警告にもかかわらず、原子炉の操業延長を承認(福島第一)

(オリジナル記事はこちら)
新聞名:New York Times - National Edition
記者名:HIROKO TABUCHI, NORIMITSU ONISHI and KEN BELSON
公開日:2011年3月21日(月) 紙面掲載日(アメリカにて):2011年3月22日(火)
発信地:東京

(記事本文)
日本の核の危機の中心となっている福島第一原発を、強力な地震と津波が襲うちょうど1ヶ月前、政府の規制当局はその安全性に対する警告にもかかわらず、発電所の最も古いとされる6つの原子炉の10年間の操業延長を承認した。

その規制委員会は延長の見直しの中で1号機におけるバックアップディーゼル発電機の亀裂を強調し指摘していた。これは規制委員会の会議後に日本の原子力規制機関のサイトに掲載された審議の概要によるものだ。亀裂はエンジンが海水や雨水により腐食し、脆弱性を増大していた。発電機は、津波で破壊されていると考えられており、原子炉の重要な冷却システムを失っている。

そのため東京電力は、原子炉、使用済燃料プールを過熱や放射性物質を放出から防ぐのに、非常に苦労している。

原子炉の操業延長が認められて数週間後、東京電力は発電所の6つの原子炉の水ポンプ、ディーゼル発電機を含む冷却システム関連機器の33箇所を、検査していなかったことを認めた。これは地震の直前に原子力規制機関で公開された結果によるものだ。

規制者たちは言う。「保守管理が不適切で、検査の品質が不十分であった。」

それから2週間も経たないうちに、この地震と津波が発電所を襲った。

原子炉の操業を延長する決定は、6つすべての原子炉での検査の倦怠と合わせて、批評家たちが言うところの発電事業者とそれらを監督する日本の規制当局の間の不健全な関係として焦点される。延長を推進した専門委員たちは、ほとんどは学界出身で官僚意思決定を支え、彼らを雇用する組織に対して意見するようなことはほとんどない。

原子力発電に対する国民の反対で発電所を新しく作ることは困難なために、不均一な安全記録と隠蔽の歴史にもかかわらず、原子力事業者たちは40年という法定限度を超える原子炉の使用を拡張するための運動を行っている。政府は、原子力エネルギーの利用拡大と輸入化石燃料への依存度を減らすことに前向きで、大きくこの動きに同情的である。そのような拡張の動きは世界的な傾向でもあり、老朽化した発電所が長く稼働させられているのである。

日本では、来たる10年間において、さらに13の原子炉と福島第一の他の5つが稼働40年に達し、巨大な交換費用の見通しを引き上げている。それが、老朽化した発電所の監査担当である原子力保安院の委員会が独自の調査結果をもみ消したりしている理由の一つだと批評家たちは言う。

2月初旬の操業延長を認める中で、規制員が東京電力に対して以下のことを監視するように申し入れている。これは2月初めに発表した報告書によるものである。
・燃料棒を保持している原子炉の圧力容器への、放射線からの潜在的な被害。
・suppression chamberを消すためのスプレーヘッドの腐食。
・原子炉のキーボルトの腐食。
・原子炉に水の流れを測定するゲージの伝導の問題

その委員会は、1号機の検査中に収集された結果を確認するために6回開催され、東京電力は地震に対する必要な防御基準に合致したことを確認した。しかし、査察団は1号機の検査をするため費やしたのはにたったの3日間で、世界で最も複雑なエンジニアリングの問題のひとつである原子力発電所の地震の危険性を評価するには、あまりにも簡単すぎたと業界の専門家は言う。

これらの疑惑にもかかわらず、委員会が推したのは、東京電力に1号機をさらに10年稼働させる権限を与えることだった。1号機はGE社(General Electric)により建設され1971年から操業を開始したものだ。この承認の過程で、東京電力は原子炉は60年間の操業が可能だと主張していた。

タナカミツヒコさんは、福島第一で原子炉の設計に取り組んだエンジニアだが、原子炉が古く、特に小さなsuppression chambersが古く原子炉内で圧力が上がる危険性を増加させるが、新しい原子炉ではその障害が除去されている、と話す。津波以来、福島第一の職員は原子炉内の圧力上昇を緩和しようとしており、大気中への放射性蒸気の放出を繰り返し、その結果同地域での食料や水の汚染に繋がっている。

「原子炉が交換されるべき時期だった。」タナカさんは言う。「津波が大きな被害を引き起こしている。しかしパイプ、機械、コンピュータ、原子炉全体が古く、役に立たなかった。」いくらか新しい2、3、4号機でも深刻な被害を受けている。

東京電力で老朽化した原子炉は、他の電力会社の原子炉と同様に、10年前あたりから一連の問題をかかえていたにもかかわらず。規制員は、10年の使用延長を承認した。それらを隠匿しデータを操作しようとしたこと、それが日本でも最大の公共事業体の東京電力で起きたことは原子力産業だけでの問題ではなく、規制における日本の弱さを明白にした。東京電力はこの不正行為を認めている。

東京電力の広報担当者、ツノダナオキさんは言っている。「我々は将来適切な検査を実施することを約束いたします。今回のことがなぜ起きたのかを究明し、国民の皆様にお伝えするよう努めて参ります。」

2000年には、原子炉を検査するために契約した別の会社の内部告発者が、福島第一工場で炉心を覆うステンレス製の覆いのひび割れについての規制当局と話をしている。しかし、この時も問題を調査するように指示を行っただけで、原子炉の操業継続を許可している。

実際、原子力規制当局はその覆いのひび割れについての情報を軽視していた、とサトウエイサクさんは話す。彼は原発に反対した時の福島県の知事である。彼が言うには、県自体そして原発を誘致した地方自治体すら、2002年に規制当局がその亀裂について公表するまで何もしらなかった。それは内部告発者がその亀裂報告を行ってから2年以上経ってからのことである。

2003年、福島県において2つの発電所の10の原子炉、新潟県において7つの原子炉の操業の一時停止を、規制当局は東京電力に命じている。これは、東京電力が検査記録を改ざんし、過去16年以上欠陥を隠し、修理費を押さえてきたてという情報を、内部告発者が福島県に流したためである。最も深刻な事件において、東京電力はその覆いの大きな亀裂を隠蔽したのである。

「日本の原子力発電所の安全を確保する上で、当てにならない組織というものは本来責任を負わされるべきだ。」サトウさんは話す。彼は1988年から2006年まで福島県知事であった。「この問題は東京電力に限ったことではなく、長い隠蔽の歴史を持っている。しかしシステム全体をだめにする。それが恐いんだ。」

日本の原子力産業に対する批評家たちと同様、サトウさんは、原子力安全保安院の有効性を本質的に暴露する利害の対立に対する監視機能が弱いことを挙げた。番犬として機能すべき機関は、経済産業省の下にあり、その省自体は日本の原子力産業の発展を奨励する通常の方針を持っている。

省庁や機関が順番に、東京電力やその他の機関らとのなれ合いを分かち合い、それらは実際に元省庁職員に対し有利な仕事を供給している。いわゆる「天下り」が横行しているわけである。

「彼らはみな羽毛の上の鳥だ。」とサトウさんは言う。福島県郡山市の自宅でのインタビューで語った。

日本の原子力安全機関、本来2番目の精査を行うべき場所だが、ここは十分なスタッフがおらず、大部分が諮問機関である。トヨダマサトシさんは、東京電力の前副社長で同社の原子力安全部門を率いた。彼は、組織は強化されるべきだ、と言う。アメリカは同じような機構を70年代まで持っていたが、議会が古い原子力委員会を解散し、エネルギー省と原子力規制委員会を設けた。

「米国の原子力規制委員会のように、発電所の安全性を確認すべき正規エンジニアが(日本にも)必要だ。」トヨダさんは言う。「私は政府に対して、この機構を変えるように言い続けてきたが、日本の原子力政策を変えるには長い時間がかかる。」

ニシヤマヒデヒコさん、原子力安全保安院の副局長は言う。「現在の安全性の機構には何も問題はありません。」彼が付け加えた。1号機の操業延長は「見つかったすべての問題は東京電力により修理された、という理解の上で承認されたものです。」

しかし、原子炉の寿命を延長するための承認プロセスは問題をはらんでいると、批評されている。承認される前に開示される情報量は非常に限られている。政府は、公共事業らからの提出書を目を通すだけで、これらの提出書が正しいのかどうかを判断する独自のテストを実施したりはしない、とカミサワチヒロさんは言う。彼女は、日本では最も遠慮なく意見を言う原子力の番犬である原子力資料情報センターの原子力安全調査者のひとりである。

「彼らは、(彼らができる)限界を拡大解釈している。」とカミサワさんは加えた。

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