The New York Times (英語原文はこちら)
By MARK McDONALD
2011年7月6日
発信地:ソウル
韓国が、過労、過度のストレスや不安で、国の神経衰弱の危機に瀕しているかのように感じられることがある。理由は、上昇する離婚率、学歴圧力によって窒息感を感じる学生、世界で最高の自殺率、仕事の後の意識を失うほどの飲酒を奨励する男っぽい企業文化である。
韓国では、毎日、30人以上が自殺で亡くなっている。エンターテイナー、政治家、スポーツ選手、ビジネスリーダーの自殺は、かなり一般的になっている。最近起きた、韓国有数の大学の学生4人と教授の自殺は国民に衝撃を与えた。ここ数週間のうちに、野球アナウンサー、2人のプロサッカー選手、学長、そして人気の少年バンドの元リードシンガーの自殺が起きている。
韓国人は、まだ、自身に起きている不安、うつ、ストレスのための西洋心理療法に抵抗している。スマートフォンからインターネットそして美容整形に至るまで、執拗なまでに西洋の技術革新を取り入れているにもかかわらず。精神科医との会話療法、心理学者、その他の訓練を受けたカウンセラーらが、ようやくゆっくりと受け入れられてきている。メンタルヘルスの専門家の話によるものである。
「感情的な問題について率直に表現することは、まだまだタブーである。」とキムヒョンスー博士、心理学者であり、光州にある朝鮮大学の教授は言う。
「うつ病において、韓国人は、それを我慢し、それを乗り越えようとする。」彼は言う。「精神分析医に行けば、彼らの残りの人生に烙印を押されることになる、と考えている。だから、彼らは行かない。」
メンタルヘルスの専門家は言う。多くの問題を抱えた韓国人は、個人の精神科診療所(料金は現金支払)に助けを求める。彼らの保険の記録に、政府の「コードF」の汚名が載らないようにするためである。「コードF」とは精神的なケアのための払い戻しを受けている人を意味する。
韓国人がカウンセリングを求める場合でも、学習曲線が急勾配になる。
著名な精神科医で、ソウルで開業している、ジンセンパーク博士は言う。新しい患者が、診察に来て、40分間、症状について対話し、請求書を見てびっくりすることは珍しいことではない。
「彼らは、言うでしょう。『こんなにかかるんですか?』ちょっと話をしただけで?私の友人や私の牧師とでも、同じようにできる。それもただで。」パーク博士は言う。
患者は、会話療法のより多くのセッションのためにお金を費やそうとはしない。その代わり、ただ、薬を求め、それに期待する患者がほとんどである、とパーク博士は言う。彼のウェブサイトには書かれている。「ほぼすべての薬は、米国で使用されているものですが、ここでも、入手可能です。だから、韓国でそれらの薬を入手することに何の心配も要りません。」
カウンセリングに来るのは、彼の患者の約3分の1だけで、パーク博士によると、残りの患者は、薬に依存していると言う。
「韓国人は、欧米の心理療法に慣れてきてはいるが、これは高度な教育を受けた西洋文化に精通する人々に限られている。」オオキョンジャ博士、ハーバード大学で訓練を受け、ソウル延世(ヨンセ)大学の臨床心理学の教授は、言う。
一方、韓国の自殺率は、驚くほどの数字で、米国に比べて約3倍近くにのぼっている。自殺率は、この10年、1999年と2009年の間に倍増している。オンラインで会う見知らぬ人たちとの自殺協定は、増加している現象である。農薬を飲んだり、首を吊ったり、高層ビルからの飛び降りによる自殺が、最も一般的である。
「我々は、うつ病の急増を見ているが、自殺の80〜90%はうつ病が産み出していると言えるだろう。」キム博士は言う。政府の精神健康クリニックが、基本的な家族や夫婦間の問題の解決に効果を発揮していることを示す。「しかし、彼らはうつ病ではない。」と彼は言う。
「この問題は、まだまだ非常に閉鎖的です。我々は、まだそれを隠している。」
韓国社会は、伝統的に、仏教と儒教の信仰によって支えられ、勤勉、禁欲主義、慎み深さに強調されている。個々の関心は、二次的なものと考えている。尊厳や「面目」を維持することは、特に家族のために、非常に重要である。
韓国の精神的な不安感を、伝統的な価値観の衰退と近代的な工業大国として国の台頭が原因だと言う専門家もあり、これは80年代以降に始まった。韓国は、悲惨な北朝鮮以上に貧しい時もあったが、今や世界13位の経済大国を誇っている。
「社会が、物質主義に向かうにつれ、人々は自分自身を比較し始めた。」パーク博士は言う。「今では、多くの競争が子供時代から始まり、人生の目標が変わる。ある諺がある。『いとこが土地を買ったら、他のいとこは腹痛になる。』」
儒教の信仰も衰退しつつある中で、韓国人は、都市生活の喧騒のストレスを発散するため、さまざまな方法を使う。処方薬がなければ。コンサルティングシャーマン、ゴルフやハイキングなどの屋外運動、アルコール、組織化された宗教、インターネット、そして旅行が、現在の一般的なはけ口である。
治療技術関係大臣の講師も務めているパーク博士は言う。キリスト教の牧師によるカウンセリングは、一部の患者にとっては一助になるであろう。しかし、これがプロの治療の代わりにはならないと警告した。「牧師は、患者自身を治療しようとする。」彼は言う。「そして、これはさらに深刻で危険な合併症や、死に至る可能性もある。」
シャーマンに相談することは、多くの韓国人の間ではまだ一般的で、たいてい、うつ病、奇病、不運続きとともに伝わっているからである。確かに、近年、シャーマニズムは、韓国で復活してきており、クライアントに仕えるシャーマンは30万人にものぼると推定されている。
ムダングとして知られているシャーマンの多くは、昨今、とても洗練されたウェブサイトを持ち(オンライン占いを備えている)、彼らは、鶏を絞めし続け、かみそりの刃の上を裸足で歩き、その霊が樹木、煙突、森林の生き物に宿っている死んだ親戚と心を通わす。
「韓国人たちは、精神科医よりも占い師を当てにしている。」ユンダエヒュン博士は言う。彼は、ソウル国立大学病院で精神科医であり、自殺防止協会の関係者でもある。「我々の最大のライバルは、占い師とルームサロンである。彼らは、確かに私達よりももっとお金を稼いでいる。」
ルームサロンは、酒好きのビジネスマンが頻繁に利用する、仕事帰りのクラブである。お客は、夜な夜な、高価な飲み物のしつこく勧めながらそれらの問題に耳を傾ける個人的なホステスの群れを選ぶ。
ユージョングさんは、デイリーモーションの占い師である。デイリーモーションとは、コーヒーを購入すると15分間占いするシステムのソウルにあるカフェである(無料のワッフルが付いてくる)。
「精神科医は、患者を患者として治療するので、皆は、医者に対し、すべてを話さない。」と彼女は言う。「若い人たちは、ここに来て私にすべてを話す。両親にも言えないようなことでも。」
韓国の若い人々は、確かに幸せではない。しかも慢性的で、幼い段階から始まる猛烈な学歴圧力も、原因の一部になっている。ここ最近の調査では、韓国の若者が、 経済協力開発国機構(OECD)の中で最も不幸な若者であることが発表された。3年連続 である。
ユーさんは言う。彼女は、1日あたり約50人の相手をする。通常は、恋愛、結婚や転職のアドバイスを求めているカップルや友人の小グループである。
「韓国人は、自分自身用の『パッケージ』、独自の救済セットを見つけようとして、もちろん、とても真剣にやっている。」オー博士、延世大学教授は言う。「彼らは、ストレスから逃れるために、必死にやるべきことを探している。彼らには、ただ、いい模範がいないんだ。」
(記事寄稿:スーヒュンリー)
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